名古屋地方裁判所 昭和51年(行ウ)32号 判決 1978年6月05日
愛知県豊明市沓掛町荒井二-一〇
原告
渡辺まち子
右訴訟代理人弁護士
内田安彦
名古屋市熱田区花表町一丁目一四番地
被告
熱田税務署長
増井秀雄
右訴訟代理人弁護士
棚橋隆
外四名
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一申立
(原告)
被告が原告に対して昭和四九年一〇月一一日付でなした昭和四六年分所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求めた。
(被告)
主文と同旨の判決を求めた。
第二主張
(原告)
請求原因
一、原告は昭和四六年分所得税につき別表の「確定申告額」欄記載のとおり確定申告をしたところ、被告は原告に対し昭和四九年一〇月一一日付をもつて同表の「更正及び賦課決定額」欄記載のとおり更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下これらの処分を併せて「本件処分」という。)をなした。
二、しかしながら、本件処分は次の理由により違法である。
1. 取得価額
原告は、岐阜市大字早田字馬場一〇八番の一二ほか四筆の土地四七八・九四平方メートル(以下これらの土地を併せて「本件土地」という。)を昭和四四年一一月一五日ころ訴外伊藤武喜及び同横山幸一の両名より八〇〇万円で取得し、昭和四六年一一月一五日これを訴外大武建設株式会社に一、〇〇〇万円で譲渡した。しかるに、被告は右八〇〇万円の取得価額を四七三万六、〇〇〇円と認定している。
2. 取得時の仲介手数料
本件土地の取得費となる仲介手数料は二〇万円であつた。しかるに、被告はこれを五万円と認定している。
3. 譲渡時の仲介手数料
本件土地の譲渡経費となる仲介手数料は三六万円であつた。しかるに、被告はこれを二一万円と認定している。
三、よつて、本件処分の取消を求める。
(被告)
請求原因の認否
請求原因一の事実は認め、同二のうち、原告が本件土地をその主張の経過で取得し、主張の価額で譲渡したことは認めるが、その主張の取得価額、各仲介手数料の金額は否認する。
被告の主張(本件処分の適法性)
原告の昭和四六年分の分離短期譲渡所得の金額は次のとおりである。
1. 譲渡価額 一、〇〇〇万円
原告は昭和四四年一一月一五日ころ訴外横山幸一及び同伊藤武喜の両名から取得した本件土地を昭和四六年一一月二五日訴外大武建設株式会社へ代金一、〇〇〇万円で譲渡した。
2. 取得費 四七九万六、七六〇円
その内訳は次のとおり。
(一) 取得価額 四七三万六、〇〇〇円
(二) 仲介手数料 五万円
(三) 不動産取得税 八、七六〇円
(四) 印紙税 二、〇〇〇円
3. 譲渡経費 二一万三、〇五〇円
その内訳は次のとおり。
(一) 仲介手数料 二一万円
(二) 登記費用 一、〇五〇円
(三) 印紙税 二、〇〇〇円
右23記載の金額はいずれも原告が確定申告した額であるが、被告は調査の結果これを適正な金額と認定した。
4. 分離短期譲渡所得金額 四九九万〇、一九〇円
右1から右23を控除した金額である。
(原告)
被告の右主張に対する認否
被告の右主張1の事実は認める。同2のうち(一)、(二)の事実は否認する。取得価額は八〇〇万円、仲介手数料は二〇万円であつた。同3のうち(一)の事実は否認する。その仲介手数料は三六万円であつた。
第三証拠
(原告)
甲第一、二号証を提出し、証人堀武義、同伊藤武喜の各証言、原告本人尋問の結果を援用し、乙第一号証の五、第八号証の成立を不知とし、その余の乙号各証の成立を認めた。
(被告)
乙第一号証の一ないし五、第二ないし第八号証を提出し、証人岩井光雄の証言を援用し、甲第一号証の成立を不知とし、甲第二号証の成立を認めた。
理由
一、請求原因一の事実(本件処分の存在)及び原告が昭和四四年一一月一五日ころ訴外横山幸一及び同伊藤武喜の両名から本件土地を取得し、これを昭和四六年一一月二五日訴外大武建設株式会社へ代金一、〇〇〇万円で譲渡したことは当事者間に争いがない。そして、本件土地の取得費のうち、不動産取得税の八、七六〇円、印紙税の二、〇〇〇円、譲渡経費のうち登記費用の一、〇五〇円、印紙税の二、〇〇〇円については、原告において明らかに争わないから自白したものとみなされる。
二、そこで、先ず本件土地の取得価額について検討するに、成立に争いのない乙第一号証の三・四、第三ないし第五号証、証人伊藤武喜、同岩井光雄の各証言並びに右一の事実を総合すれば、原告は不動産仲介業者堀武義の仲介で、昭和四四年八月二二日訴外横山幸一から同人所有の岐阜市大字早田字北堤外一九〇二番の四ほか三筆畑合計三七二平方メートルを代金三三六万円で、訴外伊藤武喜から同人所有の同市大字早田字馬場一〇八番の一二宅地一〇六・九四平方メートルを代金一三七万六、〇〇〇円で、いずれも、手附金を控除したその余の売買残代金の支払期日、物件の引渡期日、移転登記の期日をいずれも同年一一月一五日とする約定で買受ける旨の売買契約を締結し、右契約締結の日に手附金として、訴外横山幸一の分に一〇〇万円、同伊藤武喜の分に五〇万円(合計一五〇万円)を支払い、同年一一月一五日残代金の全部を支払って本件土地を取得するに至ったことが認められる。
原告は、右五筆の土地すなわち本件土地の買受価額は八〇〇万円であつた、と主張し、証人堀武義の証言にはこの主張に副うところがあるけれども、この証言部分はつぎの理由によつて措信し難い。
1. 成立に争いのない乙第六号証(昭和五一年一一月一六日作成の堀武義に対する聴取書)によれば、同証人は大蔵事務官の質問に対し「記録したものは何もありませんが、その時の仲介手数料は二〇万円であつたと記憶しておりますので、それから逆算してみて八〇〇万円位と思います。」と述べているのであるから、これによれば、同証人が八〇〇万円というその金額は、仲介手数料が二〇万円であることを前提として、これから逆算してみると八〇〇万円位になるというだけのもので確かな金額の記憶又は資料に基づくものではない。(なお、ここに前提とされている仲介手数料の二〇万円も、後記認定のとおり、五万円であつたと認められる。)
2. 同証人の証言によれば、本件土地の売値(売主側の申出値段)は平均単価が坪当り五万五、〇〇〇円であつたのを、交渉の結果、若干値引きしてもらつて全部で八〇〇万円になつた、というのであるが、本件土地の面積は四七八・九四平方メートルであるから、一坪五万五、〇〇〇円の割合で計算したとしても、その価額は約七九八万円余に過ぎず、これを値引きして貰つて八〇〇万円になつた、というのは理屈に合わない。
3. のみならず、本件土地の売主は二人である。そして弁論の全趣旨により成立の認められる乙第八号証及び証人伊藤武喜の証言によれば、売主伊藤武喜の土地は道路に面した良好な土地であるが、売主横山幸一の土地は右土地の奥にある盲地であることが認められるから、両土地の間には単価の差異があるのがむしろ当然であり、売買の当事者はこの点を忽せにできない筈のものである。しかるに、証人堀武義の証言によれば、本件売買においては、本件土地全体の平均単価と総額が定まつていたのみで、右両土地の各単価は不明のまま契約が締結されたというのである。このような事態は不自然の感を免れない。
4. 前出乙第四号証及び証人伊藤武喜の証言によれば、本件土地のうち、売主伊藤武喜が原告に売却した土地の代価は一三七万六、〇〇〇円(一坪当り四万三、〇〇〇円)であつたと認められる。そうすれば、証人堀武義の証言のように、本件土地の売買代金が八〇〇万円であつたとすれば、売主横山幸一が原告に売却した土地の代価は六六二万四、〇〇〇円ということとなり、その面積は三七二平方メートルであるから、坪当り単価は五万八、七六一円となる。しかしながら、このように同一業者の仲介で、同一の機会に売買されている二つの土地において、前記認定のとおり、盲地たる売主横山幸一の土地の単価の方が、より良好な土地である売主伊藤武喜の土地の単価よりも高額であるというのは、明らかに不合理である。
また原告本人尋問の結果にも原告の主張と符合しているところがあるけれども、その供述内容には、曖昧、不自然の点が多くみられるのであつて、その供述部分はにわかに措信し難い。他に前示認定を覆すに足る証拠はない。
三、つぎに、仲介手数料について検討するに、成立に争いのない乙第二号証、証人岩井光雄の証言とこれにより成立の認められる乙第一号証の五によれば、原告が本件土地を買受けた際の仲介手数料は五万円、売却した際の仲介手数料は二一万円であつたことが認められる。証人堀武義の証言及び原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲証拠に照らして採用できない。
四、以上により、原告の分離短期譲渡所得金額は四九九万〇、一九〇円となる。所得控除額(二一万九、〇〇〇円)が被告主張の金額であることは原告において明らかに争わないところであるから、自白したものとみなされる。そうすれば、昭和四六年分原告の課税所得金額を四七七万一、〇〇〇円、所得税額を一九〇万八、四〇〇円、過少申告加算税額を六万円とした本件処分は適法である。
よつて、原告の本訴請求はすべて理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決した。
(裁判長裁判官 藤井俊彦 裁判官 濱崎浩一 裁判官 山川悦男)
(別紙)
課税処分表(昭和四六年分)